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トランシルバニア/モルダヴィア歴史紀行 レビュー

トランシルバニア/モルダヴィア歴史紀行

家に帰って来てポストを開けたとき、DMやら銀行引き落としの請求書なんかに紛れて、旅先の親類縁者がくれた絵葉書が混じっていたりすると妙に嬉しいものだ。

オフィスなどでの海外旅行の定番のお土産といえば、空港で売られているチョコレートやクッキーなんだろうが、この手のお菓子は、大体、パッケージの写真以外はとこで買っても似たりよったりの中身だと思う。だから、お土産をくれた人の義理堅さは記憶に残るけど、彼なり彼女なりがどこへ行ってきたのか、という印象はあんまり残らない。

これに対して、一枚の紙にすぎない絵葉書というものは、ストし-トにその土地の風景なり名物なり、あるいは美男美女なりを取り上げることしかできないのがフツーだから、その分、受け取った側には、絵葉書をくれた人が"どこへ"行ってきたか、ということが強く印象づけられるような気がする。

働けど働けど…ぢっと手を見る日常を過ごしている僕にとっては、手紙を書いて封筒に入れ、切手を貼ってポストに投函するなり、郵便局に持って行ったりするのは、電子メールの送信に比べるとかなり億劫な作業で、本音を言わせてもらえば、よっぽどの必要に迫られないとやる気にならない。それでも、たまに海外に出かけたりすると、急に絵葉書を買って家族や友人に出したくなるから不思議なものだ。

もちろん、これは旅という非日常の時間と空間の中では、いつもと違う一手間をかける余裕が出てくるからなんだろうけれど、そう考えると、手紙や郵便の役割というものが、現在では実用的な通信手段というよりも、不便で非日常的であるがゆえに心を和ませてくれるもの、大げさにいえば"文化"の一翼を担うものへと変質してきているということなのかもしれない。

まぁ、"文化"なんてたいそうなことを言ったが、旅先からの絵葉書の文面なんて、たいていは「××に来ています。そちらはどうですか?」という感じの他愛のないものばかりだ。それゆえ、手紙の内容面に何がしかの高尚さを求めるのは無理といつものだろう。それよりも、切手を貼られた郵便物がその国の欠片として僕たちの手元に届けられ、そこから僕たちが遠い異国に思いをいたすといつことのほうが、よっぽど文化的な営みなんだと考えたい。

そもそも、"小さな外交官"とも呼ばれる切手には、その国の名所旧跡や文化遺産が取り上げられることも多い。もちろん、世の中の森羅万象が漏れなく切手として表現されているわけではないから、切手を見ればそれで事足れりとは僕も言わないが、それでも、僕たちがこれから行こうとしている国、あるいは、旅行がきっかけで今まで以上に興味を持つようになっだ国について、19世紀以来、連綿と発行され続けてきた切手を丹念に調べていけば、その国が自分たちのことをどう表現しているか、そのアウトラインくらいは理解できるんじやないかと思う。

こんな風に考えて、スタートさせたのが。切手紀行シリーズ夕だ。 その第二弾として、2008年6月に僕がルーマニアを旅行した際に、西部のトランシルヴァニア地方と東北部のモルダヴィア地方をまわった時のことを、切手や絵葉書を交えてまとめたのが本書である。

第一部の「トランシルヴァニア周郵記」では、ルーマニア第二の都市ブーフショフを皮切りに、"ドラキユラ城"ことブーフン城、ドーフキユラのモデルとされるヴーフド・ツエペシユの生地シギショアラ、2007年の欧州文化首都シビウ、ルーマニア近現代史の重要都市であるアルバ・ユリアとティミショアラの5ケ所を取り上げたほか、コマネチゆかりのデヴァについても触れている。ルーマニアと言えば、なんといっても、ドラキユラ、コマネチ、チヤウシエスクが不動の"三大スター"となるだろう。僕のトランシルヴァニア旅行も、結果的に、彼らの痕跡をなぞりながら、ルーマニアの過去と現在を歩くものになったと思う。

一方、第二部の「牛を訪ねてモルダヴィア」は、オードリー・ヘツプバーンの名画『シャレード』に登場する珍品切手のモデル"モルダヴィアの牛"を狂言回しとして、世界遺産としても知られる南ブコヴィナの壁画修道院めぐりと、古都スチヤヴァならびにヤシの観光、そして、隣国モルドヴァ共和国との国境越えの体験記をまとめてみた。

第一部・第二部のいずれも、旅先での僕の体験とあわせて、ルーマニア史のあらましについても一通り盛り込むように努力したつもりだ。

切手を通じて得られた知識やイメージを、旅という具体的な行動の中にフィードバックしていけば、いままでとは違った旅の楽しみ方が可能になってくるだろうし、その結果として、切手の知られざる面白さを多くの人に理解してもらえるかもしれない2郵便学者べこいつ看板を背負って生活している僕としては、これに勝る喜びはない。

本書は、雑誌『キユリオマガジン』2008年11月号から2009年12月号まで14回にわたって連載した「郵便学者の世界漫遊記-ルーマニア篇」に加筆・修正して書籍としてまとめたものである。

そもそも、僕が2008年6月にルーマニアを訪れたのは、6月20日から28日までブカレストで開催された世界切手展EFIROに自分のコレクションを出品するのが目的だった。もっとも、単なる一出品者として展覧会に参加する場合、コしクションの搬入を済ませてしまえば、あとは最終日に引き取りに行くまで、特別のオブリゲーションは何もない。もちろん、展示を全く見ずに過ごすということはありえないが、途中でブカレストを抜け出して国内旅行に出かけることは十分に可能だ。

そう考えて、僕はインターネットで格安航空券のサイトを検索し、水曜日に成田を出て水曜日に成田に帰ってくるブリティツシユ・エアウエイズが最安値であることを確認し、6月18日に出国し7月2日に帰国するチケツトを手配した。この日程だと、展覧会の会期中の4-5日間と会期終了後の3日間はブカレストのホテルに荷物を預け国内旅行に出かけることができる。

もともと、ルーマニアに行くことがあったら、首都のブカレストはともかく、1989年の民主革命の発火点となったティミショアラと、"モルダヴィアの牛"にゆかりのヤシはぜひとも訪ねてみたいと思っていたので、前半はティミショアーフまでトランシルヴァニアの都市をいくつか経由して行くことにし、後半はモルダヴィア地方をまわることにしたというわけだ。

このうち、2泊3日のモルダヴィア小旅行に関しては、すんなりと行き先を決められたのだが、前半のトランシルヴァニアに関しては、訪問先の取捨選択には大いに頭を悩ませた。結局、ブラショフ(+プラン城)、シギショアラ、シビウの定番3ヵ所に加え、ルーマニア近現代史の重要な舞台でありながら日本ではほとんど紹介されることのないアルバ・ユリア、それにティミショアラという組み合わせを選んだのだが、どこも魅力的な街で、自分の選択は間違っていなかったと安堵した次第である。

さて、2007年秋に切手紀行シリーズの第一弾として『タイ三都周郵記』を上梓した際、彩流社の担当編集者である塚田敬幸さんに「来年(2008年)は切手の展覧会でルーマニアに行く予定だ」と話したところ、「シリーズ第二弾としてルーマニアの本を出さないか」とのオファーをいただいた。僕としては異論があろうはずもない。ちようど、2008年は、1918年にトランシルヴァニアがルーマニアに統合されて90周年といつ節目の年でもあることだし、12月1日のナシヨナル・デイ(トランシルヴァニア統合の記念日)にあわせて、ルーマニアの。"漫郵記べを書くことを塚田さんと約束した。

ところが、ルーマニアから帰国して早々に雑誌『キユリオマガジン』編集部の黒田弘編集長とお会いする機会があり、同誌で新連載を始めることになった。とりあえず、切手紀行シリーズでの単行本化を意識して、ルーマニアの旅行記を書くことになったのだが、当初は、ルーマニア旅行記はせいぜい3回か4回で終わらせる予定だった。ところが、実際に連載を始めてみると、読者からの反応が非常に良いので、最低でも1はルーマニアの話を統けてほしいとのこと。そこで、彩流社の塚田さんには、ルーマニアの本の刊行は1年間待ってもらい、その代わりに"切手で知ろう"シリーズの一冊として『切手が伝える仏像-意匠と歴史』を制作し、今年4月に上梓することで許していただいた。

ちなみに、『キユリオマガジン』での全14回の連載は、プラン城、シギショアラ、シビウ、アルバ・ユリア、ティミショアラを二回ずつ、モルダヴィアの五つの修道院を4回という内訳で、本書第一部のブラショフとデヴァ、第二部のスチヤヴァ、ヤシ、モルドヴァ共和国との国境の話は、単行本化にあたつての書き下ろしである。もちろん、連載時の原稿には大幅に加筆・修正してある。

なお、モルダヴィアという語は英語など外国語の単語で、ルーマニア語の原音に忠実たらんとすればモルドヴァと書くべきかもしれない。しかし、本書のキー・ワードの一つである"モルダヴィアの牛"については、英語のみならず日本語でも"モルドヴァの牛"という用法は稀で"モルダヴィアの牛"という訳語が完全に定着している。したがつて、本書では、地域名や19世紀以前の公国の名前などは"モルダヴィア"で統一し、1991年に独立を宣言したモルドヴァ共和国に関してのみ"モルドヴァ"と記すことにした。

また、切手や郵便物などの図版に関しては、レイアウトの関係から、かならずしも、実物に比しての縮小・拡大率は一定ではない点もあらかじめご了承いただきたい。

なお、本書の制作にあたっては、彩流社の塚田敬幸さんのほか、雑誌『キユリオマガジン』編集部の黒田弘編集長以下スタッフの皆さんにお世話になった。なかでも、同誌のアート・ディレクターである田明哲さんには、毎月の雑誌連載でいろいろとお手を煩わせただけでなく、本書の制作にもご協力をいただくなど、本当にお世話になった。末筆ながら、謝意を表して筆を擱くこととしたい。

2009年10月1日
著者しるす

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